十字路の真ん中で外灯の光が降り注ぐ中、男は荒々しく身体を揺さぶっていた。その人物が男であることは一目みてわかった。ぼろぼろのジャケットにぼろぼろのスラックス。被っているハットでさえもやはりぼろぼろだった。ぼろを着ているから男だとおもった訳ではなく、身体のデカさも勿論のことだが、帽子からはみでるはずの毛髪がこれっぽっちもないことが決め手だった。おそらく坊主頭か禿げているかのどちらかだったのだと思う。
おれはいつの間にか相当近くまで近づいていて、男と同じように外灯の光の降り注ぐ中にいた。そこはまるでステージ然とした空間で、さしずめ外灯の光はスポットライトの役目といったところだった。まわりの美しい自然全てがこちらに注目しているかのようにさえ思えた。男はまったくおれに気を配ることもなく一心不乱にブルースを奏で続けていた。おれに気付いているのか気付いていないのか、その時はどちらとも見当がつかなかった。
音楽に合わせ足踏みをしたり、身体をわけのわからぬまま揺らしてみたりとしてるうちに好奇心にかられたとでもいうのか、怖いもの見たさとでもいうのか、その男の正面へまわって顔をみてみたいと思ってしまった。
ぼくはゆっくりギターのボディー側へとまわり込み、多少迂回しながら顔を覗き込もうとした。