久方振りにこの部屋に私は立っている。初めて来た時と変わらずに『ひかり』が時折差し込んできては私の顔を照らし出す。
いや、初めて来た時より窓の数が少なくなっているような気がするが。
初めてこの部屋にきたときは、まだ小さい子供だった。いつも読書にいそしみ、いろいろな本の世界を見る事に時間を割いていた。まあ、本の虫、といわれていた時期もあったが。
そこで二人の男にあったのだ。背が高い男と小太りの男。彼らは私に問い掛けた。
「お前の夢はなんだ?」と。
私は、いまから思えば恥ずかしい話だが、その時に当時テレビでやっていた特撮ヒーローになりたいと言ったはずだが。
そして、それを聞いた彼らは楽しそうに笑っていた。
そして今、30年の時を経て、また私はこの部屋にいる。
目の前には、あの時と同じように二人の男性がたっている。今回は小太りの男のほうが私に話かけて来た。
「夢は適えられたか?」と。
私は答える。
「ヒーローにはなれなかったよ。やはり、特撮ヒーローになるためには悪役もいないとね。でも、違うヒーローになれたんだ。みんなを助ける仕事につけたんだよ。」
彼は以前と変わらぬ笑顔で私に問い掛ける。
「今、自信をもってそれを誇れるか?」
「勿論だよ。」
私は胸をはってそう答えた。
彼らは私を見つめ、お疲れ様と言って消えていった。部屋には私だけが残された。ふと振り向くと後ろに扉があるのがわかった。
私は扉をあけ、明るい光がさす世界へ新しい一歩を踏み出した。
「…ご臨終です。」
医者が妻に宣告をした。そして、彼女が私の顔を優しく撫でる。
「本当にお疲れ様でした。あなたが私をあの事故から助けてくれたから、あなたに逢えて、私は幸せになれたのよ。
それだけじゃなく、いろいろな人の未来や幸せをあなたは救ってきたの。あなたはヒーローになれたんだよ。」