あたしは今、小太りの初老の男性に誘われるままテーブルにつきコーヒーを口にしている。あたしはコーヒーは飲めないはずなのに何故か何杯もおかわりをしてた。彼は笑いながら何回も空になったあたしのコーヒーカップに温かいコーヒーを注いでくれてる。
彼は突然の来訪者である私に気を悪くするわけでもなく、ニコニコと笑いかけてくれるの。
「あたたかいな…」
と小さい声であたしはそうつぶやいた。
コーヒーも勿論のこと、ずっと長い道をひとりで歩き続けたあたしにとって、たとえ知らない人でも自分に笑顔を向けてくれてる事に。
とてもあたたかい優しさというものを感じてた。
どれぐらいの時間が過ぎたのかな。あたしは彼に聞いてみた。
「ここでなにをしているんですか。」って。
彼は笑みをこわすことなくこう答えたの。「人を待ってるんですよ」と。
「わたくしはね、この部屋でコーヒーを飲みながら、大切な友人が来られるのを待ってるんですよ。まあ、一日に彼とは何回も会ってはいるのですがね。会ってなにをするわけでもなく、挨拶を交わすぐらいなんですがね。」
彼は楽しいそうに、カップを口に運びながら、そうこたえたの。
「やあ、親友。客人かい。」
いきなり、後ろから声をかけられてあたしはコーヒーをこぼしそうになりながら振り向いてみた。そこには、背の高いシルクハットの似合う老人がたっていたの。
我輩がいつものように親友の待つ処へ歩いていくと、そこには珍しく若い女性が同じテーブルに座っておった。来客か。珍しく事もあるものだ。
長居をいつもするわけではないが、挨拶をするべきであろうな。
「お初にお目にかかる、我が親友の大切な客人よ」