その背の高い紳士は、あたしとまえに座る男性に挨拶をするとそのまま、また歩きだした。さっき聞いていた話の内容の通りの事が目の前で展開され…。いや、少しだけ違ったのかな。紳士は別れ際にあたしにこういったの。『いつまでもここでゆっくりしていると、家族が心配しますよ。』と。
でも、あたしにはここが何処なのか、あの長くガス灯の明りしかない長い『みち』が何処に続くのかがわからないから。
彼の言葉に対して軽く会釈するしかなくて。
だけど。本当に此処は何処なんだろう。
さっきまでは気付かなかったけど、この部屋には沢山の窓のようなものがあって色々な彩りの『ひかり』が差し込んできて。
そう、小さい頃よくいったプラネタリウムのようで。
その『ひかり』に見とれていると前に座る男性が話かけてきた。
「昔は、もっと『ひかり』が見えたのですよ。いつからか徐々に少なくなってきてね。悲しい事だがこれも『じだい』が変わっていく為だから仕方がないことなのかもしれないね。」
あたしは彼の顔をみた。少し悲しげな目をしていたけどすぐにあたしの視線を感じて笑顔をかえす。
「お嬢さん。君にはなにかやりたいことはあるのかい。」
いきなり、質問をされ返事に困ってしまったけど、あたしは答えた。
「あります。絶対にその仕事につきたい。お母さんのためにも。」
何故だろう。初対面の人にここまで打ち明けてしまうのは。恥ずかしさに顔が赤くなるのをあたしは感じた。
その時、一瞬だけど強い『ひかり』をはなった窓があった。
彼はにこやかにその窓を指差し、「そこにある扉からおかえりなさい。」っていたの。振り向くとそこには、ここに来た時とは違う窓のついた小さな扉があったの。
あれはさっき光っていた窓?
それに扉がついていたの?
はっきりとはわからないけど、あたしは彼に御礼を言った。
「ありがとうございます。いろいろご迷惑かけてしまって。」
彼は笑いながら、手をふってくれた。あたしは扉の前にたって振り向いて御礼をしようとした。けど、そこには何もなくて。びっくりしたけど、あたしは扉に向き直り、その中に入っていった…。
…なんだろう、この消毒液の匂い…。あたしはまわりを見回すと、一人の女性と目があった。看護士らしい彼女が駆け出すのがみえた…。