男は執務机に向かい、身震いした。
今日は今年一番の冷え込みだという。
魔女の接吻さながら、凍えるような寒さの日であった。
男は自分の背中に冷気がかかったような気がした。
振り返ると、書斎の扉があけられていた。
確かに閉めたはずだが?と男は思ったが、すぐに蓋をして、これから起こるであろうことに思考を飛ばした。
「もう少しで・・・」
男は誰にでもなく呟く。
横顔には幾重もの感情が渦巻いていたのだろう。苦笑いをして、立ち上がろうとした時だった。
「え?」
ズブリと鈍い音が書斎に響いた。
数瞬遅れて、右腕を襲った激痛が男の思考を元に戻す。
悪寒が全身を支配する中、男は意を決して振り返った。
男は驚愕し目を見開く。
そこにいたのは、闇を引き連れているのでは?と思わせる漆黒のローブに全身を包んだ何者かがいた。
その者の手には鈍く光るナイフ、血に染まった姿が不気味さを煽っていた。
男は力を振り絞り逃亡を計るが、凶刃が振り下ろされた。
男の視界に移るは朱、赤、紅。
「二ノ宮・・・」
最後の力で呟くが、男の思考は深く深く沈んでいった。