Kidnapping

おぼろづき  2008-11-16投稿
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『一章』

十一月にはいり、街には色とりどりのイルミネーションが光り始め、徐々にクリスマスを意識した色に変わっていく。
今年は比較的暖かい日が続いたため、街を歩く人々はまだ軽くジャケットを羽織る程度の服装ですましている。
今日は十一月にはいり最初の日曜日。連休ということもあり、若いカップルや年配の夫婦が街にあふれているようだ。
もうすぐクリスマスだという事で、デパートや量販店は今年最後の売り込みをかけ、道行く人に声を掛けては、『お勧めな商品』の紹介を続けている。
交差点など必然的に人が集まる場所では、キャッチセールスの人間や宗教活動を支える信者達が、いろいろな人に声を掛けている。

その中に一人だけ、なにか不自然な行動をしている男がいた。
彼は笑いながら普通にキャッチセールスをしているように見えるのだが、決まった時間になると駅の改札口の方から出て来る人間を一人一人を観察するように見ており、ある人物が出て来るのを確認すると、その時間と何人連れか、どんな相手と歩いているかと手に持つ手帳に書き込んでいくのだ。それは毎日毎日朝から晩まで変わらずに行われていた。
見られている本人は勿論のこと、この場所において他人の行なっている事を気にする人間はそうはいない。
何故なら、これから自分たちが何処に何をしに行くのかという事しか考えていないからだ。
それが間違っているわけではない。むしろ、そうであることが、この場所において普通なのだから。
ただ、この場所においてキャッチセールスをしているように見せている人間に気を留める人間がいないだけであって。


しばらくすると、彼が首からぶら下げている携帯電話が鳴り、彼は一呼吸いれてそれをとる。
二言三言交わしたあと、彼は電話を切り、駅の改札口の方へ歩き始めた…。



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