私と僕

KARASU  2008-11-16投稿
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私は逃げる。『私』は『僕』であり、『私』は私だ。そして丘の向こうまでの逃避行を続ける。
何回も、何回も。丘を越えてもその向こうには丘があって、私はその丘の向こうまで逃避行を続ける。

脱力感。そして虚無感が私を襲う。
『僕』が『私』に問い掛ける。

「ねえ、何で逃げるの?いくら逃げてもいつまでも続くんだよ?意味があるの?」

「何で?解らない。ただ逃げなきゃいけないんだよ、私達は」

「じゃあ、何から逃げてるの?」

そんなの解るはずない。私は気付いたときから逃げていて、今も逃げている。ただひたすらに。
足が痛んでも、肺が張り裂けそうになっても、私は歩を緩めることは無い。
ただ、もう既に走ることは止めている。疲れてきたのが私にも解る。

「少しは休憩しなきゃ。体がもたないよ?」

「嫌。絶対に私達は逃げ切ってやる。ほら、奴らが来た!」

私達のすぐ後ろに、奴らが来ている。目では見ることが出来ない。でも、それを感覚で捕えることは出来た。
それはとてつもなく悍ましく、貪欲で、逃げなければいけないものだった。

走り出そうとした私の足が、縺れる。

奴らが私に躍りかかる。

捕まる!嫌だ!こんな奴らに捕まりたくない!



気がついたとき、私はコンクリートの上に寝そべっていた。

「此処はどこ?ねえ、『僕』、此処はどこなの?」

「僕は此処にいるよ」

私の目の前に立っている影。それは私の中にいた『僕』だった。

その影はいびつな形をしていて、明らかに人には見えなかった。

「違う!『僕』はそんなんじゃない!」

私はもう泣き出しそうだった。私が逃げていたものは『僕』で、『私』自身だと気付いてしまったから。
逃げようとする意思に反して、私の身体はうまくいうことを聞かない。

「きっと、もう僕らは逃げる必要はないんだよ。本当にお疲れ様だね」

『僕』は優しく『私』に声をかける。

「嫌!嫌だ!違う、そんなの違う!」

私はそう叫ぶと、全速力で走り始めた。

その時、気のせいであって欲しいけど、『僕』の舌打ちが聞こえた。
「君が全部いけないんだ。今まで何人殺した?どれくらい僕を殺した?全部君のせいだ」
「だから、そんなの知らないよ!!」
私は泣きながら叫んだ。

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