「あっちゃん、仕事は、巧く行ってるの?」
空気を変える為に、私は、とっさに下を向いたまま、淳に問掛けた。
「・・・、仕事か?うん、まぁな・・・。」
「そう・・・、良かったね。伝で働く事になっても、頑張ってたら、将来に繋がるだろうし・・・。」
私と淳の間には、重苦しい空気が、ずっと流れていた。その空気を変えたくて、差し障りの無い話をするしか無い気がしていた。
「俺さ・・・、自分の店が持ちたくてな・・・。今は、伝も有って、知り合いの店で、働かせて貰ってるけど、折りを見て、独立したいと思ってんだよな。」
淳には、夢が有った。私とは違う、ちゃんとした将来の夢が―\r
「応援してる・・・。小さい力だけど、私で何か役に立てる事が有ったら言ってよね・・・。」
「あぁ・・・。香里が傍に居てくれたら、もっと頑張れる気はするんだけどな。」
淳の気持ちを聞いて、さっきまで決めていた気持ちが揺るぎ始めた―\r
卒業式の数日前と同じ様に私の心の中で、二人の人格が蟲めいていた。
あの日の事は、言ってはいけない・・・。
きっと、後悔するに違いない―\r
「あっちゃん・・・、あのね、私・・・。」
「ん?・・・、どうした?」
喉の所で、つっかかって、なかなか言葉が出て来なかった。
「あの・・・、私、あっちゃんに別れようって言ったのって・・・。」
「ぁんっ?・・・、好きな奴が出来たんだろ?言ってたじゃんか、そいつと、したって事も・・・。」
続きを話したくても、身体が震えて、口も、ガクガクと震えた。私の心の中と、頭の中は、今だかつて無い様な、喧嘩をしていた。