「ねえ、完全犯罪ってあるとおもう?」
ファーストフード店で横に座っている新社会人に思える二人のうち、窓際にいる男が口を開いた。
「いきなり、何の話だよ。」
一緒にいるもうひとりの、まだ顔に少年のあどけなさが残る男がいきなりの話にビックリして目を丸くしている。
「いきなりどうしたよ。」
「いや、ふと思っただけなんだけどさ。」
彼は言葉を続ける。
「有名な処だとやっぱり三億円事件じゃない。あとは、これらの分類に括っていいのかはわからないけれど、時効を迎えた事件もある種の完全犯罪だよね。」
「確かに…」
「あとは、まだ犯人が捕まらない長期化している事件も。」
「でも、そうしたら完全犯罪がまるで簡単に出来るみたいじゃないか。それはそれでおっかない話になるぜ。」
確かに…。俺はハンバーガーをほうばりながらその意見に賛成した。まあ、そうしない為にも俺はこの警察官の仕事に命をかけているのだが。それはそれで大袈裟な話になるか。しかし、彼等の会話は立場上不謹慎だが面白い。もう少し聞いててみるか。
「…でも、どれぐらいなのリスクというか、負担がかかるのかな。きっと時効までギリギリの精神状態で生きて行くしかないんじゃないのか?いつも、おびえて暮らす訳だろ?それだったらオレは捕まったほうが気持ち的に楽だよね。」
「そうだよな。落ち着いてゆっくりと暮らせない訳だろ?オレはそんな生活は耐えられないね。」「まったくだよ。やっぱり、普通に生きる事が一番だろ。周りに迷惑かけないようにさ。」
「それが一番だよな。」そういいながら二人は、今度は互いの会社の上司の愚痴の言い合いを始めた。
オレはそれを聞きながら、「ずっと、そう思い続けてくれよ」と心のなかで願った。正直、これ以上仕事が増えたら本当に労働基準監督署に訴えたい気分になる。
…絶対に無理な話だが。
しかし、今時の若い連中はいつも、あんな事を考えているのか。そうだとしたら本当に物騒になったもんだ。近頃、新聞をうれしくもないが賑わしている少年犯罪も、今は、その場の勢いの現行犯などで検挙されるから良いが確実に計画性が認められ、俺達の部署にまで出動要請がきたらと思うと、ぞっとしてくる。
…そろそろ職場に戻るか。
…もうひとり、彼等の話に笑みを浮かべ耳を傾けていた若い男がいた。