「お前は今晩、夢を見る。恐ろしい夢だ。」
老婆のような、幽霊のような不気味な声が、ゆっくりと僕に言ってくる。
「恐ろしいことが起こるんだ。恐ろしい夢だぞ。」
僕が口を開くことはない。
「家が火事になったり、転んで怪我をしたり…。」
誰の声なんだ?不気味で仕方がない。
「恋人と別れたり、雨に降られたり…。」
その声は、僕の耳にはっきりと入り込んでくる。
「お前が自殺したり…。」
本当に誰の声なんだ?そして、ここはどこ?
「夢から覚めたお前は、現実に戻るんだ。」
景色も何もない。僕がポツンと立っているだけ。
「今晩夢を見て、明日、現実に戻る。」
輝きのない光が、僕を包んでいる。
「現実に戻ってからがもっと恐ろしいんだ。」
その声は、間違いなく僕に向けられている。
「現実で、とっても恐ろしいことが起こる。お前は殺人鬼だ。」
不気味な声が不気味なことを言ってくる。僕はただただ立っているだけ。
「夢で見たことと、全く……ことが起こる。」
不気味な声は少しずつ小さくなり、途切れ途切れになっていく。
「夢で……、全く……、起こる。」
やがてその声は消えていった。何だったのだ?
そこに突然、白い光が目に入ってきた。と思ったら、黒い闇の中にいる。
その闇の中から、不気味な顔が浮かび上がった。見覚えのある嫌な顔だ!
思わず僕は飛び起きた。
「何だ、夢かぁ。それにしてもいやな夢だったな。」
夜の10時をまわっている。またすぐに眠気が襲ってきた。
「恐ろしい夢をみるとかどうとか言ってたなあ。まさに悪夢だった。」
そう呟いて、僕は再び眠りに就いた。
不安と恐怖を枕にして…。
ー続くー