俺が通り過ぎるたび、女性客たちの目が一斉にキラッと光る。
…今の心境は、いわゆる『針のムシロ』というヤツ。
「あ、ウエーターさん、こちら追加お願いします」
「はい、かしこまりました。 追加オーダーで宜しいですね?」
「ええ。 …あら、お若いのね、うふふっ」
「い、以上でよろしいでしょうか」
テーブルを離れるとき、オーダーシートの上にさりげなく置かれた電話番号のメモ…
そこで、一部始終をじーっと眺めていたエリカのドでかい声が炸裂した。
「あーっ!こらリョージ、浮気すんなよーっ!」
(トホホ… えらいのに手ェ出しちまった……)
そこかしこでクスクス笑う声がする中、泣きたい思いを笑顔の下に押し隠して、俺はラストオーダーまで気合い(ヤケクソ?)で何とか乗り切った。
「あはは、災難だったなぁ諒司君。 モテ男もほんっと辛いよねー」
「……冗談ポイッすよ全く。恐い女って店長ばかりじゃないもんですね」
「…誰の事かしら?」
「そりゃあ、誰って… うわっ!み、美和さん!」
眉間にタテジワを寄せ、怒りにプルプルと肩を震わせた手島美和を見た瞬間、今夜の災難の『仕上げ』を予想できた…
(元凶は、エリカ……か)
…その恵利花と三度目に会うのが、これまた思いがけない場面であった。