「風間さん!」
部屋に戻った途端に、オレの下にくっついているキャリア組の潮田憲二が飛んで来た。
「なんだ、優等生。」
とてつもなく、露骨に、嫌そうな顔をして、潮田はオレを睨みつける。
「その呼び方は、いい加減に、やめてください、先輩!」
こいつとは子供の頃に同じ剣道道場に通っていた馴染で、その時にいろいろとあり。まあ、かいつまんで説明すると、オレが不良行為を行なっていた事を、御丁寧にとてつもなく恐ろしい師範代に報告をいれてくれていた訳だ。
それからオレは潮田の事を、皮肉を込めて、「優等生」と呼ぶのだ。
…少し横道にそれたか。
「で、どうした?」
と、オレが聞き返すと再び凄い剣幕で潮田が言い返す。
「どうした、じゃないでしょう!今日は署長の家に行くという、大事な用事があることを、忘れたんですかっ!」
「耳元で怒鳴るな、馬鹿」
…あー、こいつの高い声をこんなに近くで聞くと本当に頭がキンキンする。
「本当にうるさいなあ…」
小さい声でオレが言うと「なんですかっ?」とこいつはすぐに突っ掛かって来る。本当に忙しい奴だ。
「で、何時に行くんだっけ?
おっと、そうだ、五時だよな、確か。」
潮田がまたうるさくなりそうだったので、うるおぼえの時間を言ってみる。
「…十五時です。」
しまった、裏目に出た。しかし、潮田は今回は何も言ってこなかった。その代わりに「なんで、なんで姉貴はこんな人に惚れたんだ」と、頭を抱えている。
…ほっとけ。
潮田憲二の姉、潮田美玖、現、風間美玖はオレの嫁なのであり、つまりはこいつは義理の弟という訳だ。
そういう理由だからこそ、ここまでからかう事が出来るのだ。そうでなかったら、パワハラなどと周りからいわれてしまうだろう。それは自分でもわかっているのだが。
「ほら潮田、行くんだろ、早く荷物持って来い。絶対に忘れるなよ。」
椅子に座り込んだ潮田に声を掛け、オレは潮田をおいて部屋を出る。
部屋の中から奴の何か叫んでいる、かん高い声がしているがほっとけばすぐに追い付いてくるだろう。
オレはそのまま階段の方に向かっていった。
走って追い付いて来た潮田が運転する車でオレたち二人は署長の家に向かった。つい最近だが、署長は新しく家を買ったらしく、オレたちはそちらに呼ばれているのだ。