幸せの記憶<第一話:旅の始まり> 

ユキト  2006-06-18投稿
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暖かなよく晴れた空の下。
俺は木陰で疲れた足を休めていた。周りには誰もいない。そのほうがずっといい。人は苦手だ。
今、俺は旅をしている。死んだ親父から授かった大剣を腰に下げ、動きやすいそれなりの防御性も兼ね備えた服を着ての一人旅。仲間なんかいらなかった。大切なものを作ると、失くした時が怖い。
旅をしている理由は簡単だ。ただ行くところがないから・・・。
俺が住んでいた村は一ヶ月前に何者かによって襲われた。たった一人の肉親だった親父も、村人も、みんな殺されたしまった。それなのに俺だけが生き残った。理由はわからない。憶えているのは首を切られて殺された親父の死体の横に俺が座り込んで、今にも俺に剣を振り下ろそうとする顔のわからぬ相手を見上げているシーンだけ。ほかのことは憶えていない。過去の記憶もなくなっていた。そのシーンと自分の名前と、辛うじて憶えている自分の歳だけが俺を支えている。
ただ行くところがないから旅に出たとさっきは言ったが、本当は記憶を探す旅でもあった。あのまま村にいても、きっと何も思い出さなかっただろう。記憶がない分、親父が生きていた時のことを振り返って悲しむこともなく、俺はあっさりと村を後にした。もちろん、村は跡形もなく燃やしたさ。
それで今に至る。そろそろ、この暮らしにも慣れてきたな。
俺は立ち上がると、疲れた足を引きずるようにして歩き出した。今夜泊まる宿を探さないと・・・。文無しだが、厨房でも手伝えば一晩ぐらい泊めてくれるということがこの一ヶ月の経験でわかった。全く憶えていないが、どうやら、俺は男のくせに料理ができるらしい。まあ、便利なことに変わりはないからいいんだけど・・・。
少し早足で歩いていくと、町が見えてきた。意外に近くにあったんだな。ホッとして、俺は歩調を緩めた。と・・・。
ドカッ!!
突然後ろから頭を金属か何かで殴られて、俺は倒れ、気を失った・・・。

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