夜…
バーソロン邸は静かな雰囲気に包まれていた。
応接間の中央辺りに置かれた大きなテーブル。
その上に、奇妙な模様の赤い布がテーブル一杯に広げられている。
テーブルの四隅にはそれぞれキャンドルが置かれ、火が灯される。
黒いローブを着た老婆が1人、テーブルの前に置かれた椅子に腰を降ろした。
教典を広げた老婆。
手に十字架を握り締めたまま、祈祷を始める。
アースルはテーブルから少し離れた場所に立っていた。
老女祈祷師…セディ・ワトフの交霊儀式を見ているのだ。
果たして…
娘ジーナの霊は現われるのだろうか?
人形騒動は治まった。
後は…、
この世を彷徨うジーナの魂の救済だけである。
愛する娘が天国へ旅立って行かなければ…
全ては終わらないのだ。
時間は夜の11時近くを回っていた。
風もないのに、キャンドルの火が揺れ始める。
アースルの背筋に悪寒が走り始めた。
何かの気配を感じたかのか…
セディは祈祷を中断して、目を閉じた。
「来たようだね…」
アースルは固い表情で辺りを見回す。
「どこに、いるんだ!」
「アースル、お前さんの方から呼んでごらん」
「ジーナ! ジーナ!
どこにいるんだジーナ!?」
セディが一緒になってジーナに呼びかける 。
「ジーナ、いるんだろう? 姿をお見せ」
「ジーナ!」
すると…
部屋の大扉がゆっくりと開いて、人型の半透明の物体が姿を見せた。
まぎれもなく、人である。
ゆっくりとした歩調で、こちらへ歩いて来る。
ヘヤースタイル、顔の輪郭、体型…
ジーナそのものである。
物体は段々と、姿をハッキリとして来た。
セディは立ち上がり、物体へと歩み寄った。
相手に向かって手をかざしながら。声をかける。
「ジーナ・バーソロンだね?」
「ハイ…」
ゆっくりとした口調で答えるジーナ。
生きていた頃と同じ声にアースルは懐かしさを感じた。
セディの質問は続く。
「今までお前は、どこで何をしていた?
今から10年前に亡くなったから…本来なら今頃、神の元にいるハズだ」
「…」
「なのにこうして、アタシら前に姿を見せた」
「…」
アースルが口を挟む。