Kidnapping

おぼろづき  2008-11-19投稿
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「あ、途中で○○駅に寄ってくれないか。そこで美玖と合流するから。」
オレは車を運転する潮田に言った。美玖も署長の家に挨拶に行きたいといっていたので最寄り駅で待ち合わせをしていたのだ。美玖はオレと違ってキャリア組で、今は本庁の刑事課で係長をしている。つまりオレ達の上司という訳だ。
「わかりました。姉貴は元気にやってるんですか?」
ハンドルを駅の方向へきりながら、潮田が聞いてくる。オレはタバコをくわえながら、
「これでもかと言うくらいに元気だよ。だけどなんか最近は本庁でなにかあったのか、ちょっとピリピリしているけどな」
と言って、火をつけた。
「先輩は姉貴と仕事の話はしないんですか?」
「する訳ないだろ。四六時中事件の話をしていたら、さすがにオレとあいつでも互いに気が滅入ってくるぞ。家では仕事の話は絶対にしないと言うのが結婚する時に決めたルールなんだよ。」
「姉貴らしいルールですね。姉貴の事だから、ルールをもし先輩が破ったら大変そうだなあ。」
潮田が他人事な事を良い事にニヤニヤしている。

……本当に大変だったのだ。以前一度だけ、仕事の話をした時がある。その時は、会話をしない状態が一週間続いた。連絡のやり取りは、家にある冷蔵庫に付いているメモのみを使用してだけである。
しかも、書いてあった内容といえば、《ご飯、冷凍庫。おかず、鍋》のみ。そしてこのメモが朝、夜で一日二回。この状態が一週間も続くのは、本当に洒落にもならず。
最後はこっちが折れてなんとか許してもらったのだ。
正直な話、この件に関しては思いだしたくもない。

オレは潮田の問掛けを、美玖に電話を入れる、という手段で逃げた。心の内で絶対に交通課の婦警の前でいじり倒してやると誓いながら。

「オレだけど。美玖、お前今何処にいるんだ?俺たちは西口前に着いたけど。」
電話の向こうで美玖の慌てた声がする。
「今改札出た所だから解りやすい所にいて。」
オレは笑いながら、「回転灯点けっ放しにするか。」と、冗談を言ってみる。

「馬鹿じゃないのっ」

すごい大きい声が耳を貫く。…やはり、こいつらは姉弟だな…。

「冗談だよ。一般車用のロータリーにいるから。」


電話を切って数分もせずに美玖はオレたちの前に姿を見せ、彼女は後部座席に乗り込んだ。
「さあ、行きましょ。」

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