「あのね・・・、それは、実はね・・・。」
私は、全身が震えながら、頭の中の喧嘩に打ち勝って、その先の事を、話そうとしていた。
その瞬間―\r
淳の携帯が鳴った。
「ゴメン・・・、電話だわ。」
「うん、出て・・・。」
私の心臓は高鳴り、口から飛び出す勢いだった。
淳は、携帯を鞄から取り出し、電話を取った。
「もしもし・・・。どうした?今、飲んでんだけど。」
淳が、そう言った次の瞬間、相手の受け答えを聞いた後、顔が固まった。
「・・・、は?マジで言ってんの?おい、今、どこなんだよ?うん、そっか・・・。直ぐ行くよ。分かった、じゃあな、後で、うん・・・。」
何か大変な事が起こったに違い無かった。淳の顔色が一気に変わった事も、ただならぬ空気も、淳と接している時間が長い私には、すぐに伝わった。
「あっちゃん?何か有ったの?」
気になって、淳に聞いた。
「別れた彼女が、手首切ったって・・・。前の店で一緒に働いてた奴から、電話でさ・・・。今、病院だから、来て欲しいって。」
「じゃあ・・・、すぐに行ってあげて。」
淳は、携帯を鞄にしまい、テーブルの上の煙草とライターを片付け、椅子を立とうとしながらこう言った。
「香里、お前の話ってさ・・・、続きは?」
この状況で、手短に話せる様な内容じゃ無い・・・。しかも、淳に、別れた彼女の事以外の心配も、今は、掛けたく無いと思った。
「大した話じゃ無いの・・・。良いから、早く行ってあげて。彼女、淳の顔を見たら、落ち着くかも知れ無いでしょ?ね、私の事なんて良いから、早く・・・。」
本心じゃ無い―\r
淳が、今でも好きだから―\r
淳に、心配掛けたくない―\r
「ゴメンな、マジで・・・。俺、行かなきゃ・・・。また、電話するからさ。」
淳は、椅子から立ち上がり、鞄を肩に掛けると、一万円札をテーブルに置き、走って店を出て行った。
店のドアが閉まった瞬間、私の目から、一筋、涙が溢れ落ちた―