その様子に、男性はクスリと笑い、
「驚かせてごめん。まだ、眠っていると思ったものだから、ノックもしなかったんだ」
「あ、あなた、一体、誰だの?」
モネの質問に、
「歩道橋で君の前を歩いていた人間。いきなり女の子が降ってきたんでビックリした。ついでに言うと、意識までないんで、本当に焦った」
と、少しアクセントのある語調で答えた。
モネはその言葉で、やっと、目の前の男性が自分の前を歩いていた男性だと悟った。でも、それなら、何故、救急車を呼ばなかったのだろう...?というモネの疑問を察したかのように、目の前の男性は、傍の椅子に腰掛けながら、更に続けて言った。
「意識のない君を見て、すぐに救急車を呼ぼうと思ったんだけど、携帯はこのマンションだったし、それに携帯を持っていても、僕には救急番号が分からなかったんだ。何しろ僕は韓国人で、昨日、やっと、このマンションに来たばっかりだったから。急いでマンションに引き返して、人に知らせようと思ったけど、周りに人はいないし、意識のない人をそのまま置いていけないでしょ。だから、背負って僕のマンションまで連れて来たというわけ」
その男性の説明を聞きながら、モネは、
『ああ、この人、日本人じゃないのね。それで言葉にアクセントがあるのか』
と思う。
「では、あの、あなたが私の治療を...?」
モネの質問に、
「いや、僕は医者じゃないから。お隣の人に救急車を呼んでもらおうと言いに行ったら、お隣のご主人が、偶然、医者だったんだ。で、その人に診てもらったら、軽い脳しんとうで、足もくじいているみたいだけど、救急車を呼ぶほどのことはないって。ただ、頭を打っているから、念のため、明日、病院でちゃんと診てもらいなさいと言うから、そのまま寝せておいたんだ」
そう、そうだったの...。これはまた、見ず知らずの人間にえらい迷惑をかけたものだと、モネがすまなそうに、
「ごめんなさい。あなたの上に落ちただけでも悪いことをしたのに、その上、いろいろ面倒までみてもらって...。それなのに変な声出したりして...。と、とにかく、私、知り合いに電話して、今から帰ります」
とモネが慌てて言うのを、
「えっ? 今から? 今、夜中の3時だよ。人に電話をする時間じゃないよ。それに、足、痛いんでしょ」
と、韓国人の男性が言い、確かに目の前の柱時計は3時を指している。