「さてと…。これを見たら彼等もこちらの言う事を聞かなくてはならないはずだな。」
ポストに○△信用金庫と書かれた封筒を何通か投函しながら彼は言った。どういった返事が来るのかは既に彼にはわかっている。
彼等にとって、彼の申し出を断ることは自分の首を絞めることにほかならないからである。彼が、わざわざ自分の経歴を偽って何人かの探偵を使い調べあげた彼等の有力な共通の情報のみをその封書の中にはいれてあるのだ。
もし、その手紙の内容でも彼等が従わない場合の時の為に、まだ提示してない情報も、まだ、ある…。
必然的に、いや、抗う術も無くその封書が届く先にいる人間は、彼のゲームの為の駒と変わり果てるのであろう。
彼にはそれがわかっているからこそ不敵な笑みを絶えず浮かべているのだ。
…さて。次は、もうひとつの駒を獲得しにいくか…。
彼は駅前にあるネットカフェに入っていく。勿論偽名を使い受付を済ませて奥へと進んで行く。あるパソコンの前にいくと慣れた手付きでキーボードを操作し、ある画面を映し出す。そこには数十人からのメッセージが入っていた。
それらを見ながら彼はゆっくりとメッセージの送信者の経歴を見て彼等を値踏みしていく。
…頭が回り過ぎても、回らなさ過ぎても良くない…。しかも、行動力が無くては話にならない…。
慎重に、慎重に彼は人選を行なっていく。
この人選を間違えてしまったら、この長い時間をかけて作りだし準備をしてきた計画が、行動を開始した直ぐに頓挫してしまうのが目に見えている。
彼は一通一通の文章をしっかりと読み返す。文章の構成、言葉の使い方から相手の性格、人間性を読み取ろうとしている。
10分、…20分…。彼はじっくりと時間をかけ、全てのメールを隅から隅へ読んでいく…。
彼は一度全部に目を通し、また再び気になった人間からのメールを読み返す。それ以外のメールは削除をする。
そして、またその行動を繰り返す。何回、何十回もそれを繰り返し、とうとう一人の人間が残った。
「この人間なら、かなりの高い確率でこの仕事をこなす事が出来るはずだ…。」
彼はそう小さく呟く。
「はずだ、か…。…どんなに細かい計画を立てても結局最後は運に頼るしかないのか…。」
と彼は苦笑いをしながら選出した人間に仕事の内容、連絡の手段を伝えるメールを送った。