作家・山田の苦悩

シノ  2008-11-21投稿
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『もう後戻りはできない。ついに殺ってしまったのだ。昨日久恵を殺した。その後のことは、ほとんど覚えていない。必死で証拠を隠すことと、早くこの場から立ち去ることだけを考えていたが、それ以外は何も覚えていない。だから完璧かどうかはわからない。
そして自転車で帰り、アパートの住民に気づかれないように静かに部屋に入ったことは微かに覚えている。もちろん帰ってから一睡もしていない。眠たくても寝られるわけがない。
だから今このように、昨日のことを覚えている限り紙に書き留める。
今ざっと読み返したが、やっぱり何も覚えていないようだ』

すると、古いアパートの階段を上ってくる足跡が聞こえてきた。
防音の欠片もない部屋だから凄く響く。

『今誰かが階段を上ってきている。足音からして二人いるようだ。警察かもしれない』

二人の足音は階段を上りきり、この部屋の前で止まった。そしてノックを二回した。
強く叩いたのか、部屋中が揺れたような気がした。

「金森さん、いるんでしょ? 開けてください」

金森は物音を立てないようにして、身を屈め、ペンを手に取った。

『やっぱりだめだ。もう逃げられない』

その時、「ドン」と言う音と共にドアが開けられ、二人が入ってきた。そして、その内の一人が胸ポケットから手帳を出した…





そこまで書いて、山田は頭を掻き毟った。
ここ数年なかなか良い小説が書けなくて悩んでいた。
「くそったれ」
そう言って机を思い切り蹴ると、その弾みで袋一つ落ちた。
山田は小説が書けなくてイライラし、日々薬物を常用しているのだ。それはこの間外国人から買ったものだった。
拾うのも面倒になり、ソファーに座ると、呼び鈴が鳴った。そしてノックを二回した。
急いで玄関に行くと、背広を着た二人の男が立っていた。
「山田昌弘さんですね?」
「はい…」

「警察です」

と言って、胸ポケットから手帳を出した。






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