黒いローファーが、何か不自然だった。
よく見ると、ストッキングを履いた左足の甲に、あるべき「べろ」がないのだ。無造作に履いて内側に折れ曲がっているのか。気持ち悪くないのか。
グレーのピンストライプのパンツの足元。
見上げると、でっぷりしたおばちゃんだった。のけ反って爆睡している。
ベージュのマフラーからすぐ首まわりの肌が見える。はだけたワイシャツ。給食エプロンみたいな青白い化繊。裾が出しっぱなし。ボタンがとまらないのか、開けっ放しのジャケット。黒いナイロン鞄と紙袋。左手薬指の指輪。むっちり太い指。弛緩しきった全て。スーツからはみ出る弛み。
直視出来ない。
説明出来ない哀しさがまず先に。
これが成れの果ての姿か。
これが働く女の成れの果てのもう一方の姿なのか。
東武伊勢崎線浅草行き。
私は新越谷で降りる。
次は草加だという。
弛みきった彼女はどこまで帰るのか。