「お邪魔しま〜す。あれ、一人暮らしなのに綺麗にしてるね?」
「…。何もないって言いたい?」
いつものように振る舞っているつもりだが、内心ドキドキしていた。
なんせ惚れた女の子が家に来ている。
しかも二人きりだ。
そして初めて見る私服によって新鮮さも増している。
細い足、くびれた腰、スレンダーな胸…。
ちょっとがっかりしたのは男の性というものだろうが、そんな俺の事などお構いなしで彩は料理を続ける。
俺の邪な期待を知ってか知らずか「疲れてるならニンニクとか入れちゃおうか」と、まるで恋人のような彩の態度に“なんだか今日、いけそうな気がする“ってフレーズが頭をよぎる。
彼氏がいなければな。
そう必死に獣を檻に閉じ込める。
「彼女いないって言ってたけど、気になってる人はいるでしょ?」
悪戯っぽく笑いながら言った彩の一言に俺は反応できなかった。
「しかも病院の人だよね〜。結構近くにいる感じで…」
もうダメだ。バレてる。
なんだよ、俺はさっき気付いたばっかりだってのに…。
でもどうせならフラれた方がいっそスッキリすんのか?どうせ友達なんだし…。
意を決して口を開く。
「…俺が好きなのは」
「酒井さんか田中さんでしょ〜?彩の勘ってよく当たるんだ♪」
…。じゃあ珍しく外したのね。
彩を好きって可能性は考えてないのか。
残念な気持ちと安堵の気持ちが交錯する。
“彩の事が好きだ“
口元まで出た言葉を飲み込んだその時、彩の表情が変わる。
「…本当に??」
何の話だ?俺はまだ何も言ってないぞ?
「彩の事が好きって、本当?」
…飲み込めていなかったようだ。
どうやら呟いてしまったらしい。
告白してフラれるのはわかっている。
ただもう少しだけ、この恋人気分を味わいたかった。
「ねぇ、本気でそう思ってくれてるの???」
口を閉ざす俺に彩の視線が突き刺さる…。