「ハァ、ハァ。初めまして。高橋さんですか?」
あれから一週間、沙也夏はすぐにでも会いたいとメールしてきた。
だが平日は彩と会っているため、何かと理由を付けて断ってきた。
初めての待ち合わせに遅れまい、と走ってきたその姿には初々しさが残る。
「初めまして。高橋です。いつも話は聞いてるよ。」
沙也夏は19才の大学生。思わず女子大生という響きに反応してしまうのはオッサンになった証拠なんだろうか?とにやけてしまった。
「何か変ですか?高橋さん、急に笑うから…」
「いや、想像以上に沙也夏ちゃんが可愛いからさ。嬉しくて。」
「本当ですか〜♪」
嘘である。彩を初めて見た時は外角低め一杯だったが、沙也夏はインハイだ。しかも割とビーンボール気味だ。
彩との共通点は“可愛いらしい“胸だけ。
花は桜木、男は岩鬼。
昔から好球必打を教えられた俺には見送る事しかできなそうな感じ。
ただ、今となっては愛情を感じる彩でさえ最初はギリギリに感じたのだから、恋とはそんなものなのかもしれない。
そんな事を考えながら、沙也夏との時間は思いの外早く過ぎた。
沙也夏との週末。それは彩と隆が過ごしている事を忘れるには丁度良かったのかもしれない。
「さ、遅くなっちゃったね。送ってくよ。家はどの辺?」
車を走らせようとしたその時、沙也夏が俺の手を掴む。
「…私、子供じゃありませんから」
さっきまでとは全く違う大人の女の顔になった沙也夏がそこにいた。
いつの間にか、インハイのビーンボールはホームランボールへと変わっていた。