嶋村瑶子は今、大変な悩みを抱えている。
最近であるが彼女は新しい家に家族で越して来たのだ。そのため、部屋の荷物を整理しなくてはならない。しかも彼女の荷物はあまりにも多過ぎて、家族公共の場所の「リビング」にまで今現在進出、いや、むしろ侵犯しているのだ。しかし、バイトや学校の授業の兼ね合いで時間が思うように作れず、親にはいつになったら片付けるのかといつも小声を言われ続け、やっと一日休みの日が出来たのでその日を整理に当てると約束していたのだが。
《…明日は一週間ぶりに、とても日差しのいい暖かい日になるでしょう。》
と、昨日のニュース番組の天気予報で報じられたのを聞いて直ぐに幼馴染の佐伯結子に電話をし、明日は渋谷、原宿辺りを周ろうと約束してしまったのだ。
電話を切ったあと、両親から冷たく、鋭い視線が彼女をさしたのは言うまでも無い。
「明日でかけるのか？この部屋の整理はどうするんだ。」
父、晃が聞いてきた。
「そんなに遅くならないと思うから、帰ってきてから片付けるよ。」
と、瑶子は答える。普段なら晃が「そうか。」と言って話が終わるのだが今回はそうならなかった。キッチンから母親の美和がこういって来た為だ。
「明日はお昼過ぎにお客様来るからね。リビングちゃんと片付けてきれいにしておいてね。」
瑶子は美和のいるキッチンへ駆け込みながら声をかけた。
「本当に、お母さん？冗談でしょ？」
タオルで両手を拭きながら笑顔で美和は答える。
「本当よ。べつに瑶子がでかけるのは構わないわよ。だけど、ちゃんとリビングは午前中に片付けてくれるわよね。」
「…ま、まあ、ねぇ…」
そう言いながら瑶子は後ろのリビングで一番の場所を陣取っている自分の大量の荷物を見回す。正直な話、半日で片付けられる量ではない。自分の部屋さえ片付けていればそこに彼等をとりあえず置いておけば良いのだが、自分の部屋はこのリビングよりひっちゃかめっちゃかになっているので、リビングの荷物を持っていく事すらできないのだ。
瑶子は結子との待ち合わせの時間より逆算して、どれだけの時間がかかるか考えてみた。
「…ギリギリじゃない…。」
そうして瑶子は急いで部屋にもどり整理を始めたのだ。しかし、悲しいかな、予想を良い意味で裏切ってくれることはなくて、結局、
「無理、片付けが、間に合わないっ。」
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