夜の闇に浮かぶ広大な大地。
大地が浮いている。
空に。
天空浮遊都市・ソルティア 天空守護衛士隊寮
「えーと、天空守護衛士に正式に入隊するためには、一年毎に行われる選抜試験に合格しなければならず、そこでは技・知識・心の三つが試され合格するのは難しい、か・・・。」
真夜中の一時の暗闇に包まれた部隊寮。
其処から漏れる一筋の光。
机の上の山の様な本に相対し、時たま欠伸も交えながら本を読み進めていく男はふと、自分の後ろで何かが動くのを感じ取った。
その正体は起こされた不機嫌からか、此方をじっと見ている同室の男だった。
「起こしたかい、赤火。」
男は微笑しながら不機嫌そうに布団にくるまりながら、こちらを睨んでいる男を見た。
燃える炎を連想させる赤い髪、長身だが布団にくるまっている分、幾分か小さく見えた。
「・・・こんな夜中になにしてんだ、ティルス。」
赤火は眠そうに目をこすりながら、本を読み進めている男に言った。
「何って・・・、読書だよ?見てわかんない?」
ティルスは自分が他人を起こした事を悪びれもせず、逆に不思議そうな顔をしていた。
「いや、読書してるのは分かる。俺が言いたいのは何でこんな時間に声に出して読むんだ、という事だ。」
「だって、昼間は授業で忙しいし、休憩時間じゃ時間が足りないからだよ。そんな中途半端に呼んでもしょうがないでしょ?」
「さぁな、俺は読書なんざなしないからな、そんな事サッパリ解らん。」
そう言うと、赤火は寝返りをうって、眩しく光る照明に背を向けた。
「赤火もこの機会に読書始めたら?読書の楽しさが解るかもしれないよ?」
「無理無理・・・。」
赤火は苦笑しながら、否定の意味で手を横に振った。
それから少しの間沈黙が部屋を包み込んだ。
聞こえるのは本がたてるページがめくられる音だけ。
それから少し経った頃だろうか。
ティルスが(そろそろ寝ようかな。)と思ったのは。
時計は既に2時を示していた。
ティルスは横目で此方に背を向けて寝ている赤火の寝息に微笑しながら、机の上に煌々と光っていた照明の電源を切った。
「おやすみ、赤火。」
そして、部屋は夜の闇に包まれた。
無論、次の日赤火とティルスが寝坊して、授業に遅刻したのは言うまでもない。
続く。