そう言って、黒鷲は窓を開け放つと、
「『このような事件が起こっても、焦らず対応した女王陛下と宰相殿に敬意を表する』と…」
彼はその言葉だけ残して、夜の闇に消えていった。
リグラはしばらくその闇を見つめていたが、やがて、剣の柄に掛けていた手を離して、
「…ルークよ。どんな理由があろうとも、他国の隠密を城の中に招き入れるのは許されぬ。それなりの刑は覚悟しておるじゃろうな…?」
と、言いながら、静かに窓を閉めた。
「は…覚悟しております」「…そうか」
深々と頭を下げるルークを見て、リグラは少し頬を緩めた。
「…よかろう。先ほどの隠密の言葉が全て真実であった場合、この罪については不問にする」
「!」
ルークは驚いたような表情で、リグラを見た。
「さて…忙しくなるぞ。まずは、奴らの計画を止めねばならんな」
リグラはそう言って、肩を上下に揺すった。
「…リグラ様は、変わっていますね」
「そうかの?わしは普通のおじいさんじゃよ。…変わった所があるとしたら、宰相という肩書きくらいなもんじゃ」
「…」
ルークはリグラの後ろ姿をじっと見つめながら、一つ小さく首を傾げて、
「…リグラ様は…」
罪を人に与えるのが、嫌いなんですか?―