雑踏…
腹を減らした若者や、先を急ぐサラリーマンが、入り乱れた街中。
S氏は、雑踏の中から、一人の影の薄い中年の男性に目を引かれた。
衣服も地味な特徴の無い男…
S氏は、不思議と、その男の後を追ってみた。
全面硝子張りの高いビルの谷間を抜けて、角を曲がると…
嫌に、古惚けた建物や風景に変わった。
周りの景色を不思議に見とれていたら、男の姿を見失ってしまった。
昔のバス停が立っている所で、S氏は、新聞を拾って驚いた。
「昭和32年…」
未だ、自分が生まれて居ない時代にタイムスリップしてしまった。
途方に暮れているS氏の前に、あの影の薄い中年の男が現れ行った。
「不思議と思っても、付いて来るべきでは…」
S氏「では、私はいけないものを追ってしまったのですか。」
男「良く思い出して下さい。」
男は、二色のコマを回すと、コマの色が変わり始めた。
S氏は、コマを見て思い出した。
子供心に、コマを回して、ふと大人に成ったらなぁと思った事を。
男が現れて、大人の世界、則ち40年後の世界に、連れて行かれた事を。
男に呪文を、掛けられるとS氏は、子供に戻ってコマを回し始めた。