2006年11月29日
落ち着いて本を読んでいた。
自分の中に「影響の輪」というものがあって、
自分の影響力が1%でも及ぶところには全力で対応するが、
及ばないところはもがいても仕方ないので
他のことにエネルギーを使うようにしている。
焦るよりも次のことを考えていた。
もし、彼女が完治したら、また同じ仕事につくのか。
ということだ。
事件の日も彼女は終電で帰ってきた。
女の子を終電まで平気で働かせる会社にまた戻るのか。
そして次のことを考えていた。
「そんな会社辞めてしまえ」
という権利が僕にはあるのか?
帰り道も真っ暗だし、犯人もまだ捕まってない訳だから
もっと安全な場所に住んでほしかった。
でも、
彼女の仕事を辞めさせて養い、
もっと安全な場所に家を構えてあげられるほど
僕の稼ぎはない。
大学生の就職活動時代は
「お金じゃない」
と言って、夢のある企業ばかりを追い掛けていた。
働いてお金を稼ぐ難しさに改めて気付くが、
ここにきて目の前に立ちはだかった。
もしかして自分に稼ぎがあり、もっと前に対策をしていれば
この事件は起きなかったんじゃないか、とさえ思った。
手術は既に予定を3時間も超えていた。
さすがに額に汗が滲んできた。
そのとき手術室のランプが消えた。
彼女がベットで運ばれてきてそのまま病室に運ばれた。
口をずっと無理矢理器具で開けられていたのであろう。
唇がオバQのようになっていた。
彼女は意識は朦朧としていたが僕の指を握った。
生きていればどうでもいい、と思った。
会社は彼女に二ヶ月の休みをくれた。
そして僕も会社が三年に一度くれる一ヶ月の長期休暇の申請を出した。
毎日、朝、実に毎日見舞いに行ってから仕事に向かった。
相変わらず彼女は腫れぼったい顔で
Qちゃんみたいな唇だったが明るかった。
彼女が退院する頃、僕も無理矢理申請を通し、
彼女の家に完全に住み込んで暮らすことにした。
やることは決まっていた。