目を開けるとぼやけた視界に黒いドラゴンが光に照らされているのを見た。不思議と体は驚く程軽かった。
何だろうあの黒いドラゴンは。
ああ俺はもう死んだのかな。
ここはきっと死後の世界なんだろう。
ハルはぼんやりとそんなことを思った。
「君は何を求めているんだい」
黒いドラゴンは言った。
「シルバードラゴンの涙…」
ハルはぼーっとしながら言った。
「ではなぜ?」
「リリーのため」
「…それだけ?」
黒いドラゴンはひどく驚いた。
「ああ。約束したんだ」
「約束?」
「リリーを助けてリリーの絵を買うんだ」
「たったそれだけのために君はこの[魔界の洞窟]に来たのかい」
「ああ」
「……」
バリーン!!
大きな音が響いた。ぼーっとしていたハルは一気に目が覚めた。
「なっ何だ」
幻のような、夢のような黒いドラゴンの鱗が大きな音と共に崩れ落ちていった。
「あっ…シルバードラゴン」
ハルは鈍く驚いた。黒いドラゴンの鱗ははがれ綺麗な銀色の鱗に変わったのだ。
「ありがとうハル」
シルバードラゴンは言った。
「君が私を本当の姿にしてくれた。君の様な人は初めてだ。みな私を探す者達は己のため。己の欲望ためにしか私の涙を欲しがらなかった。そんな人達の欲が私の鱗を黒くしてしまったんだ」
シルバードラゴンは続けた。
「でも君は違った。君はリリーのためだけに私を探した。他の人のための心が私を本当の姿にしてくれたんだ」
「他の人じゃないさ」
ハルは言った。
「俺にとってはただの他人じゃない。大切な人なんだ。俺をきっとまだ待ってる。だからあなたを探しに来たんだ」
シルバードラゴンの目から涙が流れた。
「なんて優しくて暖かい人なんだ。君は春の陽気みたいだね」