「馬鹿。」
天空浮遊都市ソルティアの丁度中心部に位置する天空守護衛士養成機関「アルテミス」。
人々の雑踏が行き交う中、その入口の前で一人の女性と、土下座している二人の男性の姿があった。
「まぁ、仕方ないだろ?ティルスが起こそうたって起きないんだからさ。」
赤火(セッカ)は目の前にいる鬼神の如き形相の女性から逃れるため、友人を一人生贄にしようとした。
「何言ってんのさ?起きなかったのは赤火の方でしょ?だから、言ったのに、明日は早いって。」
勿論の事だが、ティルスも同じ事を考えていたのは言うまでもない事だった。
「はっ?お前何言ってんだ?起きたのは俺だけ。お前は起きてないだろ。とぼけるなよ。」
「全く、赤火はとぼけるのが巧いね、遺伝?」
虚しい罪の擦り合いは長く続いたが、今日は如何せん相手が悪すぎた。
「よく言うな、このオトボケ王子が。俺は忘れんぞ、この前、お前が・・・」
「いい加減にしろ、この馬鹿共がぁ!」
パチーンでは生ぬるい、もっと破壊力のあるビンタが赤火の頬に炸裂した。
「・・・痛ってぇ!お前突然、何すんだよ!」
赤く腫れた頬をおさえながら、赤火は思わず反論してしまったが、それが命取りになった。
慌てて口を閉ざしたが、時すでに遅し、とはこの事と言わんばかりだった
「へぇ?何すんだ、って言った?良く聞こえなかったけど?」
鬼神の如き気迫を漂わせながら、その女性はゆっくりゆっくり赤火に近づいていった。
「ちょっと待て、渚!そんな事言ってない・・・様な気がする。」
「気がする?」
「もしかしたら言ったのかなぁ?」
「かなぁ?」
「言いました。」
「だよねぇ。」
渚は赤火を追いつめるとポケットから黄色い小さな玉を取り出して、悪魔のように言った。
「嘘吐き達にはお仕置きが必要だよねぇ?」
「え?」
と赤火。
「達?」
とティルス。
二人が困惑する間に事態は最悪すぎる方に進んでいた。