「諒司ィ。 雀ってさァ、麻雀弱いの知ってっか?」
「なぜに?」
「だってお前、あがり手がチュン(中)のみ! なんちゃって〜」
「…アホか。 わりィけどロンな。 おめーの点棒まとめてよこせよ、康介」
「うげげ… マジかよ…」
「僕はテンパって終わりですね」
俺、倉沢諒司はバンド仲間の石島康介、峠昭彦らとドラムの木村孝志が抜けた穴をいかにすべきか相談……するはずが、なぜか麻雀大会になっていた。
「あー畜生!やってらんねーや。
諒司、お前最近強すぎるんじゃねーの?」
「うーん、…始めたのは康介クンが言いだしたからですよ?確か」
「昭彦、うるせーよ!」
「それよりもさァ、孝志の後釜どうするんだよ」
「…ああ」「…ですよね」
結局名案が出るはずもなく、俺たちはいつものスタジオへと向かった。
『ミュージシャンは音を出しながら考えるもんや!』
と主張する康介の言に従って……
「よう、お前らか。 後二十分くらい待っててや。
今日は先客がいてね」
演奏ブース内を親指で指した管理人の村岡が、済まなそうに教えてくれた。
「先客? 良くこんな所知ってるよなぁ、と…イケネ」
「こんな所たァご挨拶じゃないの、諒司…」
「い、いやぁ、知る人ぞ知るって意味で…その」
バンダナの上から頭をポリポリかいていた村岡にすかさずフォローを入れた俺は、慌ててブース内を覗き込んだ。
「あれ?一人やん。
それもオネエちゃん?」
「時々来てたガールズバンドの子なんだけど、解散しちまったんだと」
石島康介と村さんの会話をBGMに、俺の目は熱いドラミングを繰り広げている娘に釘づけになっていた。
「エリカ!……」
「え?諒司クン、知り合いだったんですか」
「まぁ、……ね」
疫病神転じて救いの神?
(こりゃ、マジでいける)
俺はその時、希望の光ってやつを見いだしていた。