部屋に戻り着替えてきた瑶子がほっぺたを膨らませながらリビングに戻ってきた。
持って来たショルダーバッグをテレビの正面にあるソファに放り投げてから、三人が座るテーブルにつく。美和が瑶子のカップにホットココアを注いだ。
「ありがと。」
不貞腐れた口調だが、瑶子は美和に御礼を言った。正面に座っている結子は、コーヒーをふーふーと冷ましながら瑶子に問い掛けた。
「渋谷には、なにしにいくの?買いたいものでもあるの?」
目の前の皿に乗っている目玉焼きの黄身を崩しながら瑶子は、
「もうすぐクリスマスだからさ。プレゼント買わないと。いろいろ相談したいからさ。」
と、瑶子は父親が横に座っている手前、言葉を選びながら結子に答えた。
「いろいろ、相談、ねぇ…。」
にやにやしながら結子はコーヒーを啜り、じぃっと瑶子を見ている。
父親のほうをチラリと見れば、彼は興味ないように新聞を読んでいるが、瑶子達の話にしっかりと聞き耳をたてて聞いているのがわかる。母親は母親で、興味津津に結子に話の内容をもっと詳しく聞こうといろいろな質問を繰り出している。
しかも、質問を受けてる結子は結子で、美和の知りたがっている情報を見せたり隠したりと、その駆け引きを楽しんでいる。
「このままじゃ、マズい…。」
長くここにいると下手な事を変に鋭い美和に話の内容を感づかれ、最悪の場合、話の内容を突っ込んで聞かれると瑶子は思い、急いで朝食を食べて席を立つ。
「ほら、結子いくよっ。いつまでコーヒーを飲んでるの。」
先程ソファに投げたバッグを左手に持ちながら瑶子は結子を急かす。
「まだ、コーヒー残ってるよぉ。」
「いいからっ。いくよっ。」
結子は「しょうがないな」と、席をたち瑶子の後ろに続いて玄関に歩いて行く。
「おじさん、おばさん、朝御飯ご馳走さまでした〜。」
玄関から結子の声が響く。
「気をつけてね。いってらっしゃい。」
美和がキッチンから答えた。
玄関の扉が閉まる音がすると美和はゆっくりとテーブルに戻りお茶をいれて晃に手渡す。
「いつになったら連れて来るのかなあ。」
と美和が呟く。晃が笑いながら「瑶子の彼のことかい?」と言葉を返す。
「うん。もう知ってるんだけどね。必死に隠したりしてるから可愛いくって。」
「あまりいじめるなよな。」
と、晃は笑った。