菫は、路上の日陰になっている石段に座り込んでいた。
無表情でお腹に手を当てている。
(──……鞠花ちゃんがあの時…蓮華をとったなら…私は…身を引こうと思った。…私は蓮華の幸せを…願い始めていたから…)
ハァと溜め息が無意識に出る。
「菫!」
「……蓮華」
蓮華が走り駆け寄って来た。息を切らし、菫の前まで来る。
「…菫…具合い…悪いのか?」
息を切らしながら蓮華が聞くと、菫は顰笑した。
「いいえ…少し疲れて座っていただけ…蓮華はどうしたの?」
「あっ…あの…ごめん!俺どうかしてた。頭を冷やしてよく考えた。…俺…鞠花の事は忘れる。…だから俺と結婚して下さい」
蓮華が地面に片膝を付け、菫の手を握った。
蓮華の真剣な顔付きに、蓮華の揺るぎ無い決意を感じる菫だが、微妙な気持ちだった。
「──……でも…いいの?…あなたが押し続けたら鞠花ちゃん…傾くと思う」
いくら椿君が好きだと言っても、蓮華の事もずっと愛していたのだから…
簡単に気持ちは無くならない…
「いいんだ。俺は…お前と俺達の子供を一番に思って守るよ」
「……本当に?私達を守ってくれるの?」
「ああ」
「…」
菫が、蓮華の手を握り返し優しく微笑む。
「これからは…俺達で頑張って行こう」
「うん」
二人はかたく手を繋ぎ、幸せになろうと誓い合う。ここまで来るまで色々あったが二人はそれを乗り越え、結婚という道を決めた。
「これからは三人で一緒にいよう」
蓮華が、菫を愛しそうに抱き締めた。
菫が蓮華の温もりを感じ、顔がグシャと崩れ涙目になる。
しばらく二人は抱き合い時間が静かに流れた。
「──……」
ブ──
二人のすぐ横の道路から車が向かって走ってくる。スピードはあまり出ていない。
キキキ─キ──
安全運転だった車がいきなりハンドルをきり、急ブレーキをかけながら二人に突進してくる。
「Σ蓮華!!」
ドガガッガン───
菫が車に気付き、声をあげた瞬間には遅く、車は二人にぶつかり止まった。
ブレーキの音と共に大きな衝突音が響き、辺りは騒然となった。
二人は固く抱き合ったまま意識無く…
体から流れた赤い血が地面に広がり、凄惨な光景が目の前に押し寄せた…