「よっ、久しぶり」
俺、倉沢諒司は、顔の汗を拭きながら演奏ブースから出てきた品川恵利花に声をかけた。
「あ、リョージ……」
俺の呼びかけに、こちらを見上げたエリカ。
その時、彼女の瞳に光る涙に思わずハッとさせられた。
「エリカお前、……どうしたんだよ?」
「…何でもないよ。
もう、終った事だし……」
「バンド解散したって聞いたけど、この前お店に来た女の子たちがメンバーか?」
「ううん、違う…
あの子たちは友達なんよ。 ところでさぁ、リョージ達っていつもここ使ってんの?」
そこで、蚊帳(かや)の外扱いにされていた康介が口をはさんできた。
「あ、ちょっとスマン。
二人だけの世界に割り込んでアレやけど、エリカちゃん、俺たちと音出してみねェ?この前ドラム抜けちまってさ。…どう?」
「あたしは全然いいよ?
スコア(楽譜)さえあれば」
「やりィ! ドラムマシンにはうんざりしてっからよ」
とんとん拍子に話が進む。
こういう時の康介は、関西生まれのB型らしく押しが強い。
エリカの気分転換には、この手の強引さが意外と良い方に作用するかも知れない。
「あれーっ!左利きが三人もいるじゃん。 …何だか変だよ?」
ギター 石島康介、左利き
ベース 倉沢諒司、左利き
ドラム 品川恵利花、左利き
「アッキー(昭彦)だけ仲間外れで可哀相だね〜」
「いえ、僕は左右両利きなんですよ実は」
キーボード 峠昭彦…両利き
「な、ケッタイなメンツやろ?」
康介が無意識に関西弁を使うのは、気分が乗ってる証拠だ。
俺は、高まってきたテンションをあおる様に、いきなりカウントを始めていった。
「んじゃ、一発いくか!
1・2・3・そりゃっ!」
ドッカーン!!てな感じで俺たちのプレイは始まっていた。