金曜日になった。
仕事を終えたあたしは慌ただしく出かける準備を済ませ、沢山の荷物を持って車に乗り込む。
片道1時間。
あと1時間したら彼に逢える。
こないだ夜中に電話がなった。
彼からだった。
彼が大好きな、あたしも大好きな彼女の話をした。
あたしが休みを取った日を告げると、その日は彼女に逢いに行こうと思っていると言われた。
拒絶された気がして言葉がつまった。
もちろん彼はそんな気は全くなかったようで、突然無言になったあたしに
「あれ?美保?
どしたん?お〜い」と呼びかけた。
押し殺していた苦しさが瞬く間に戻ってきた。
けれどもう苦しみを隠そうとは思わなかった。
涙が出てきたけど、泣きながら彼に言った。
宥めてくれた彼に甘えてしまう。
この場限りの言葉かも知れないという気持ちを無視した。
金曜日、彼を前に、あたしはもうあの電話の話はしないだろう。
話を蒸し返してもまたツラくなるだけだから。
嫌われたくないから。
「逢いたかった」とキスをねだってセックスをするんだろう。
彼が彼女に逢いに行くのは止められないから。
あたしはそれでもいいと、彼にすがった事を思い出した。
だからこそあたしに彼女に逢いに行くと言ったのに。
隠されて逢われるよりずっといいのに。
「美保の事も大好きやで?
これからもずっと一緒な」
セックスを終えた彼が言った。