「い…今からって、そんなの無理に決まってるじゃん!なんも準備してねぇし」
マモルは慌てて言った。
「大丈夫です。手ハズは整えてあります」
男はそう答えた。
そして間髪入れずに、狭い道幅いっぱいもある巨大な空港行きのリムジンバスが、会場に颯爽とやって来た。
「ミユキは大丈夫なのかよ?いきなり出発しちゃっても」
マモルが聞いた。
「アタシは大丈夫…慣れてるし」
ミユキが小さくうなずいた。
「サァー!皆さんでこの若い二人を見送りましょう!では行ってらっしゃい!!」
男がそう叫ぶと、周りから一斉に、無数の紙テープが飛んだ。
二人はバスに、まるで押し込まれるかのように誘導された。
バスの入口でマモルは後ろを振り返り、男に聞いた。
「海外って…行き先は?」
「ミステリーツアーでございます」
その瞬間、バスのドアが閉まった。
バスは二人の貸し切りだった。
運転手は無言で、国際空港めがけてバスを走らせた。
マモルが言う。
「参ったなぁ……俺、バイトの途中なんだけど。オヤッサンに怒られるわ」
「さっきの車の景品といい、この海外旅行といい、何でも急な抽選会だったね」
ミユキは、バスの外の景色を眺めながら言った。