ダズはその絵はさっきリリーの部屋で見た絵だと思った。
「その絵は俺の物だ。リリーは売ったがその絵まで売った覚えはない」
あの絵が他の人の所に行くのはもったいない。美術館の館長としてではなく個人的にそうダズは思った。
「いいえ。その絵はリリーの物です。その絵はハルのために夜、寝る間も惜しんでこつこつ描いた物です。あなたのためではありません」
シルバードラゴンが言った。
「何だと?……じゃあその絵を俺に売ってくれ。シルバードラゴンの涙の半分をやろう」
ダズはそんなことを言った。
「売れません」
リリーは言った。
「何?シルバードラゴンの涙だぞ。半滴もあれば金持ちになれるんだぞ」
「売れません」
「金が欲しくないのか。お前は[売り物屋]に売られた女だぞ」
「そんなの関係ない!リリーはリリーだ」
ハルは言った。
「この絵はいくらつまれても売れません。お金じゃないんです。私が好きで描いただけです。ハルのために」
リリーは強い目でそう言った。全て本心だった。
「…もう知らん。好きにしろ。とにかく俺にはシルバードラゴンの涙がある。ハハハハ!」
ダズは家の中に笑いながら入っていった。
「はい。ハル」
リリーはハルに絵を渡した。この瞬間をずっと待っていたのだ。ハルは絵を見た。
「……」
ハルは言葉が発せられなかった。いや発する事を忘れていた。なんてきれいな絵だ。初めて見たにもかかわらず心の中にすぅーと入ってくる情景。ハルは知らない内に涙を流していた。
「ど、どうしたの?」
心配そうに聞くリリー。
「いや。わからないけどなんか涙が出てきたんだ。ありがとう。最高の絵だよ」
「どういたしまして」
リリーは笑った。