しんとした中に、二人の足音だけが響く。亜子は手を握られたまま、下からそっと悟の顔色を伺った。
「今日、何かちがうね」
「そう?」
悟は言ったきり、また黙ってしまった。最近悟は、二人きりの時、あまり喋らない。それが亜子はとても落ち着かないのだった。
「星、きれいだね」
亜子が言うと、悟は空を見上げた。
「北斗七星だろ」
「何それ」
「ほら、ひしゃく型の」
悟は繋いでない方の手で、星たちをなぞった。
「ひしゃくって何?」
「神社とかで手を洗うやつだよ。てかこれ、理科で習ったんだけど」
「え、そうだっけ?」
亜子は必死に思い出そうとする。
「高校、落ちたな」
悟が言うと、亜子は慌てた。
「冬の代表的な星座は?」
「さそり座?」
「オリオン座だ、ばーか」
悟がいつもの口調で言ったので、亜子はほっとした。