こんな作品のどこが面白いのか解らないが、ほとんど空席もなく満員だった。
僕たちは一番最後列の席に座った。
館内放送が流れる
【ただいまより、上映を開始します。携帯は電源をお切り頂くか、マナーモードの上、ご観賞くださいますようお願い致します。】
辺りが暗くなり出した。
僕は横目で彼女を見た。
映画の宣伝をポップコーンを片手に食い入る様に見ている。
しばらくして、字幕が流れ始めた。
二時間後、映画の上映は終わった。
終始、僕には訳が解らない内容だったが、彼女は泣いていた…。
「あー、すごく感動したよねっ。面白かったぁ」
「えっ、あっ、うん、そうだね…」
「もー、絶対に寝てたでしょー(笑)せっかく誘ってあげたのにぃ。」
「見てたんだけどなぁ、何か感動もんとかって、苦手なんだよね。」
「ふーん…そっかぁ(笑)じゃあ、そろそろ出よっか?」
涙でグシャグシャな顔を整える為に彼女は、トイレに入った。
外は雪がちらついている。
夜になると雪のせいもあってか風が一段と冷たく感じた。
「これって今年の初雪じゃない?」
「そうだなぁ、綺麗なもんだな。」
「今年ももうすぐ終わるね。来年も仲良く出来るといいよねぇ。じゃあ、あたし、寄るところがあるから!今日はありがとう。」
そういうと、彼女は背伸びをして、僕の唇にキスをした。
「またね。」
彼女は屈託のない満面の笑みを浮かべ、去っていった。
あれから数週間が過ぎた。その日を期に、彼女からのメールや電話はぷっつりと途絶えてしまった。
大学にも来ていない。心配になり、家に何度も足を運んでも、人の居る気配すらなかった。
「そういう事か…」
二年後、僕は大学を無事に卒業し、社会人になる。時が経ち、いつしか彼女の事も次第に忘れていった。
ある日、コンビニから帰る途中、面影のある顔に出くわした。
彼女には彼氏がいた。
彼氏に向けるその笑顔はあの日と同様に、僕に向けた屈託のない笑顔そのものだった。
僕は彼女が見せたあの時の涙の意味を理解し
「幸せになれよ」
そう呟き、空を仰いだ。