亜子の家の近くまで来ると、悟は立ち止まった。
“なに?”
目で問いかける亜子を引き寄せ、優しく抱き締める。
悟は亜子が愛しくてしかたがなかった。
亜子は硬直して、棒立ちになっていた。
「こわい?」
悟が尋ねると、亜子は慌てて首を振った。
「俺のこと、好き?」
悟の低い声が、体中に響く。
亜子は頷いた。
「好きじゃなきゃ、付き合わないよな」
悟は独り言のように言って、腕を解いた。
「じゃあな」
「え?」
「また明日」
手で“しっしっ”と、追いやられ、亜子は家の方へと歩き出した。
途中で後ろを振り返ると、悟はさっきの位置で、手を振っていた。
亜子も手を振り、家の門を開けた。