あなたは有名人。
わたしは一般人。
それでもわたしは
あなたを愛してる。
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2008年12月6日。
周りは人でいっぱい。
息が詰まりそうだ。
誰もが前へ前へと進もうとするのを、警備員さんは必死に止めている。
『杉山智弘 握手会』
と書かれた旗が、寒空の下、静かになびいていた。
(わたしはこれからトモと握手をするんだ…!)
ドキドキで周りなんか見えなかった。
立ちっぱなしで2時間待つのも苦じゃなかった。
握手して笑顔なんかみたらきっとはわたしは泣いちゃうだろう。
いや、もしかしたらニヤニヤが止まらないかもしれない。
わたしが今並んでいるのは、最近人気の若手俳優「杉山智弘」通称「トモ」の握手会。
この日の為に新しい服も買ったし、慣れないメイクも練習した。
そしていよいよ、あと5分もすれば本物のトモに会って、目を合わすことができる。
握手している間のあの1秒という短い時間で何を言おうか、わたしはずっと考えていた。
(「頑張って下さい」はありきたりだし…やっぱ「身体大事にしてください」かなぁ…)
あれこれ考えているうちにもうわたしの前には女の子3人くらいと、トモがいるだけになっていた。
もう次の瞬間には彼の手を握っていた。
「あ、あ、あ、あのお…」
トモはキョトンとした顔でわたしの顔を覗き込んだ。
顔がカアアっと赤くなるのがわかった。
だって顔の距離約30cm。
「が、がんばっ…」
言い切る前に押し出されてしまった。
そのうえ、あれだけ言う事考えたのに結局「頑張って下さい」って言ってしまった。
でも本物の杉山智弘と、たった1秒でも見つめ合えただけで、わたしは満足だった。
帰りの電車の中、わたしはきっとニヤニヤしていただろう。
でも周りの目なんか気にならないくらい、わたしはずっと手を見つめてた。
トモにぎゅっとした右手を。
トモとわたしの初対面は、ほんの少しの後悔と、たくさんの幸せがあった。