睡蓮の咲く頃2

蓮音  2008-12-13投稿
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「・・・っ、ぁあ!」
幸一はさっきの衝撃でドアの窓に頭を打ったようだ。私はまだサイドブレーキから手を離せず、凍り付いたように力一杯握り締めていた。とっさのこととは言え、自分にこんな機転の効いた行動がとれるとは信じられなかった。
「・・・レナ、大丈夫か?」
痛む頭を抑えながら、幸一が低い声で尋ねた。「・・・う、うん」
「ごめんな、俺・・・。それより、殺っちまったか?!」
幸一は頭を打った痛みを忘れたかのように、血相を変えて外に飛び出した。私もハッとして幸一の後に続いた。
「・・・?!」
何もない。確かに車の前に人がいたはず。幸一も困惑した様子で立ち尽くしていた。
「・・・どうして?」
「こっちが聞きたいよ」「だって、だって人が!私見たのよ!それに何となくだけど、ぶつかったような気がしたし」
「ああ、俺だって、意識ははっきりはしてないけど、そんな感覚は感じたよ」

何となく腑に落ちない気もしたが、私は再び車に戻った。幸一はまだ車の周りを確認していた。
私は急に怖じ気付いた。死ぬつもりでここまで来たのに、思いもしなかったとが起き、予定が狂ってしまった。どうせ死ぬなら、例えひき殺してしまったとしても関係なかったはず。でもだからと言って関係のない人を巻込むことは罪になる。でも、私は幸一を無理心中と言うカタチで殺そうとした。これは立派な罪だ。でも、ずっとその覚悟を胸の真ん中に置いていたはずなのに、さっきの衝撃と共にずれてしまった。
彼のペットボトルに、睡眠薬を入れた時、ものすごく手が震えた。私の父の病院からくすねた錠剤の睡眠薬を事前に丁寧に砕いておいた。それをペットボトルに入れてよく振った。500mlのものだと薬が解け切れず残ってしまわないように、ちゃんと飲みきってしまえるように、わざと小さいサイズのものを選んだ。既に蓋が開いていることを不信に思われないように、運転している彼を気遣うふりをして、さり気なく蓋を開けてあげるふりをした。他にも細部に渡り、物凄い神経とエネルギーを、“死”と言う目的に向って私は使い果たしてしまった。失敗することは全く考えていなかった。私は、もう一度その目的に向って、エネルギーを傾けるできるだろうか・・・。
『コンコン』
幸一が窓を叩いた。ハッとして目を向けた。



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