Kidnapping

おぼろづき  2008-12-14投稿
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「やばいなぁ、約束の時間に送れちまうよ。」

始は電車に揺られながら買ったばかりの携帯電話の画面を見てため息をついた。時計の時刻は待ち合わせ時間をあと十数分で表示するだろう。しかし、待ち合わせ場所のある駅まではまだ数駅もある。瑶子達に連絡をとろうにも、新しい携帯電話の電話帳にはまだ一件も登録が無いのでメールや電話も出来ない。彼は新規で二台目の携帯電話を買ったのだ。
彼が新しい携帯電話を購入した理由は、これからの就職活動の為とアルバイトの連絡用等の為のビジネス用に使う為だった。
しかも、よりによって、こういう時に限って一台目のプライベート用の携帯電話を家に忘れてしまったのだ。始の頭の中では、瑶子や結子からのメールや電話を知らせるメロディが彼の部屋の机の上で鳴っているのが浮かんでいた。
また、電話を握りながらブツブツと「なんで電話にでないのよっ。」と瑶子たち二人が言っている姿も目に浮かぶ。
例え、仮に待ち合わせの時間に間に合ったとしてもただで済まないだろう。
始はもう一度、携帯電話の時計をみて再びため息をついた。
「なんて、言い訳すればいいのかね…。」


しかし、無常にも残り一駅になった時に携帯電話の時計が待ち合わせ時刻を始に知らせた。



始が二人との待ち合わせ場所についたとき、時刻は既に三十分近く過ぎてしまっていた。
勿論、彼女たちの機嫌は最悪だ。
「どうして返事も、電話にもでないのよっ。」
結子と目が合ったときの第一声はこの言葉だった。瑶子にいたっては完全にむくれてしまい始の方すら見ようともしない。
始は携帯を忘れてしまっていた事、新しい携帯を買うのに手間取った事を説明し必死に謝った。
そのかいもあり彼女達の機嫌も治ったのだが。一つだけ、彼女達に条件をだされたのだ。

《今日一日食事等おごる事》

…優しい事に、交通費だけは免除してくれるそうだが。始は彼女達に気付かれないように小さく呟く。

「…定期持ってるからだろ。」

「なんかいったあ?」

前を歩く二人が振り向きながら始に聞いてくる。
「なんでもない。」
待ち合わせに遅刻した手前、始に反論の余地はないのは明らか。始は潔く彼女達の後をついていった。


そして、
…その少し後ろをつけるように歩く男がいる事に彼女達は気付く事はなかった。

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