女のアップからカメラはスッと引いていく。
全体像を見て、我が眼を疑った。
女は少女の様に小さい。
がりがりに痩せ、背骨は捩れ曲がっている。が、それを差し引いても恐らく小学生くらいの背丈しかなさそうだ。
というのも、女の横に後ろ姿の女性が立っているからだ。
その女性の腰くらいまでしか身長がない。
小さい女はカメラを見つめながら唇を歪めた。
ボロボロの服には一昔前の少女キャラクターが描かれている。
幼女のような服装だが、俺には到底、この女が幼いとは思えない。
肌は老婆のようにくすみ、節だらけの右手は何かを掴んでいるようにぎこちなく固まっている。
そして左手には斧。
横にいる女は動かない。
異空間のような一室。
これはなんだ…?
誰かが作ったホラーフィルムだろうか?
小さい女はゆっくりとこちらに向かってくる。
斧を引きずる音が響く。
見せ付けるように斧をカメラの前で捻くりまわした。
そしてゆっくりと先程の場所まで戻り…おもむろに後ろを向いた女性の両足に斧を振り下ろした。
女性は跳ねるように前のめりに倒れた。
血飛沫が飛ぶ。
立っていた女性はカメラから消えたが、なおも斧を振り下ろし続ける女の体中が鮮血で染まる。
ぐしゃっと肉を断つ音のみが俺の部屋を満たす。
胃の奥から酸っぱい液体が競り上がる。
これは…なんだ?
現実なのか?
数十回休みなく叩きつけた斧を、女はようやく降ろした。
こちらを向き、真っ赤に染まった顔…目の中さえも血が入り全てが赤い…が、俺を見つめた。
その顔は画面いっぱいに広がり、真っ赤な目は間違いなく俺を捕らえていた。
俺はリモコンに手を伸ばし、電源を切った。
が、消えない。
女は呟く。
「わかりません…わかりません…わかりません…わか…」
俺は叫んでいた。
間違っていた、見てはいけなかった。
俺は罠に嵌まったのか?
ガクガクと震える足を引きずるように、立ち上がり玄関へと向かう。
ここにいてはいけないと本能が告げる。
汗で滑るノブを回し、飛び出した瞬間…俺はあの部屋にいた。
あの女がいる、あの部屋に。
「な…なんだよ…?なんで…ここは…」
小さな女は胸元に斧を抱え、俺を凝視している。
俺は今更きづいた。
女の言葉。
私には何故だかわかりません
それは俺に…ここにつれて来られた人間に言っていたんだ。
女は虚ろな声で呟く。
私には何故だか…