『どーもどーもぉ!!』
2人の若手芸人の声が
小さなライブハウスに響きわたる。
「始めましてぇ♪笑え屋でーす!」
「かっこえぇやろ??」
バシッ
「何言ってんねん!?お客さんドン引きやぞ!!」
「そぉかぁ??俺に見とれ取るやん♪」
「お前の行き過ぎた思い込みや!! ほら、何かお客さんに声かけたれ!!」
「いやぁ、こんな熱い中、こぉんなせっまい所に来て頂いて、俺ほんま嬉しいわぁ」
バシッ
「せっまいっちゅーのは失礼やろ!!ほら、マスターに謝りや!!」
「わりぃ」
バシッ
「お前も覚え悪いなぁ!!どんな教育受けてんねん!!」
「毎日近所の畑に行って、腹満たせぇ♪言われとったわ!!」
「あほかぁ!!それドロボーやぞ!?それに逆ギレはないやろ!!」
「…」
いきなり相方の
信太が黙り込んだ。
(おい!!ネタ忘れたんか!?)
俺は慌てて信太を肘で突いた。
「なぁ次郎、やめようや。」
信太がやっと口を開いたかと思うと、ネタではなく信太本人の本音が出てきた。
「ばっ…信太!!」
「だって、誰も客おらんのに、誰笑わせればいいねん。」
そうだ。今のこの店の中には、誰もおらへんかった。
いるのは、この店のオーナー鈴木さんだった。
「あんなにチケット配ったのによぉ…何でこぉへんのや!!」
「まぁまぁ、面白かったよ??君達の漫才。」
鈴木さんが喧嘩になりそうだった俺達を、すんなりと止めた。
「いや…でも。せっかくステージも貸してくれてたのに、こんなんないやろ…」
「あんなぁ、次郎。君達はあんなに一生懸命住み込みで働いてくれたやないか??ステージならいつだって貸したるわ。それにな、誰も最初から売れる芸人なんて、ドコにもおらへん!」
「鈴木さん…」
信太が涙ぐんでいる。
「泣くなや!!わてら、笑え屋やろぉ??」
鈴木さんが笑いながら答えた。
俺らも、自然と笑みがこぼれていた。