フォークダンス

橘 薫  2008-12-14投稿
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手をつなぐ。
ただそれだけの行為が、どうしてこんなにも優しい気持ちにさせてくれるのだろう?
久しく話していない友の手を握った。
友は微笑んだ。
会話はなく、ただ最初に、よろしく、とだけ。
手のひらの感触すら残らないような短い時間。
あっという間のようでもあったし、過去の記憶が走馬灯のように巡る、長い長い時間のようにも感じた。
終わった時は、お互い笑顔で。
あっけなく離れた。
――そして、あの子。
私から目を背け続ける、ケンカ別れしたあの子。
それこそ会話などなかった。
私は実は恐れていた。
自分が彼女を嫌悪するのではないかと、拒絶反応を起こして、反射で彼女を避けてしまったらどうしよう、と。
……そんなことはなかった。
私は気づいたら彼女の手をとっていて、彼女も抵抗しなかった。
つないでいる間、私はひたすら彼女の手だけを見ていた。白くて細い手。家事などいっさい手伝ったことがないのではないかと疑わせるほど、綺麗な手。
以前はその手を気持ち悪いと思ったこともあった。その手の撫でるような動きに悪寒がした。しかし今は感じなかった。
彼女の手は、何の力もなく、ただ私に握られている。
あまりにも儚く、弱々しい手。男性はこんな手を握りたくなるのではないか、守りたくなるのではないかと、馬鹿なことを考えていた。
なんにせよ、そこに嫌悪も憎悪も怒りも、何もなかった。
むしろ安らぎすら感じた。
それでも二人は大急ぎで、体裁だけ整えるように早足でステップを踏み、パッ、とお互いがお互いを突き放すようにして離れた。
もちろん彼女の方がどう感じていたかは知らない。
ぞっとしていたかもしれないし、私を憎く思いながら踊っていたのかもしれない。
だけど、私の方は、嫌じゃなかった。
嫌じゃなかったのだ。
単純に驚いていた。
私、すごい。
人って、すごい。
どんな確執や戦争の後でも、こんな瞬間がやって来ることだってあるのだ。
温かい、と感じる瞬間が。
平和と安らぎを宿す瞬間が。
ただ、手をつなぐ、それだけの行為で。
嬉しかった。

私は、まだ、行ける気がする。

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