殺し屋は目をわずかに開いた。
―これはめずらしい殺しの依頼だ。
目の前にいるのは、ひとりの痩せこけた、中年の男。くたびれた灰色のどぶ鼠色といわれるスーツと、曲がったネクタイ。なんとも薄幸そうな面構えだ。
「あんたにこれが殺せるかい」
男がにやりと、皮肉に頬笑んだ。殺し屋が、男の態度に少し苦笑いした。
「私に殺せないものはありませんよ。安心してください、依頼はこなします」
「そうですか。では、依頼料は指定された口座に振込んでおきます。」
「はい、わかりました」
きぃ、と立て付けの悪い戸をあけた。
蛍光灯の光が、薄暗い店内を照らした。ちらちらと、蛍光灯に集まる蛾が目に入った。
「御依頼人」
静かに、殺し屋が声をかけた。男が立ち止まる。
「あなたのように、やさしい依頼は初めてです。…私は、うまれてこの方、こんな優しい殺しを依頼されたことがありません。」
「…」
男はここに来て、初めてうれしそうに、照れたように笑ってみせた。
「お願いしますね」