「おい、このバカ。
さっさと行くぞ。」
「だけど…」
「だけどじゃねぇよ。
シーラはきっとヘトラレスタの谷に向かってるはずだ。」
小降りになった雨の中三人はラウフの自宅を出た。
「でも、どうするんですか?今から言っても追い付けませんよね?」
「それは、こいつに頼むんだよ。」
ラウフが連れてきたのは二頭の馬。
「雪はランスと乗ってくれるか。このままだとこいつ途中で引き返しかねないからその見張りだ。」
「はい。」
真剣な面持ちで雪は頷いた。
シーラは一つ目の山の中にいた。
霧のように降る雨が体をしっとりと濡らす。
頬を伝う雫は雨なのか涙なのかすらわからない。
ただ、その瞳は潤んだように揺れ色褪せていた。
「……。」
ため息と共に吐き出す息は白い。
湿った風が山の中を抜け彼女の銀髪を揺らした。
伏せるように項垂れた時だった。
風のせいではなく、不自然に茂みが動いた。
シーラは反射的にその茂みと距離をとり身構える。
ガサリ、ガサリ
「……。」
またもう一度茂みが大きく動いた。
そしてその茂みから人影が姿を現した。