ユンテデ宙路の決戦は終わった。
ガレンバルボとガニバサは、よく宿命のライバルと評されるが、用兵の手腕から言えば、後者に軍配が上がる事でほぼ決着が付いている。
ガニバサは正しく、宇宙時代最高の提督であり、地球時代で言えば、アレクサンダーやナポレオン、項羽に匹敵するか、それをも凌ぐ英雄・名将だったのだ。
たった一人でこれ程の戦歴を重ね、歴史を動かしえた人物は、宇宙時代では彼を置いて他にはいない。
その彼が、同時代唯一の強敵ガレンバルボを破ったのだ。
最早、全宇宙がガニバサの思うがままになるかと誰しもが考えた―\r
だが―\r
銀河元号一五五五年第三期一日(修正太陽暦七月一日)突然の知らせが、彼のもとに届く。
それは―聖別の証たる《教会の旗手》の称号を彼から剥奪し、ガレンバルボに与えると言う宗教界の宣旨及び宙際連合によるガニバサ討伐の激であった。
一夜にして政治的・精神的権威と正当性を奪われたガニバサは、怒り狂った。
今まで保護・協力を惜しまなかった《朝廷》による、それは裏切りだったのだ。
宙際連合も宗教界も、ガニバサの軍事力と指導力を恐れ、銀河全体が彼の《帝国》と化するのを阻止しようと躍起になっていた。
そこへガレンバルボの手が伸びたのが、事の真相であった。
骨と皮にまで擦り減った頑冥固陋のおいぼれ風情共が!
誰がおまんまの与え手なのかすっかり忘れたと見える!
この際、形骸化した宙際連合を滅ぼし、腐敗と陰謀の巣窟にまで堕落を極めた(と彼は見下していた)宗教界を力でねじ伏せようと、ガニバサは出陣の予定を立て、総計八八0万隻・純戦闘艦艇だけでも三00万隻を数える大部隊を、かつての決戦場ユンテデ宙路に集結させた。
この報に、熟練兵や士官を大量に喪失していた銀河連合はパニックに陥り、中央域ではガニバサに寝返ったり中立を宣言する星系が相次いだ。
しかし、作戦開始を五日後に控えた同年第三期五六日(修正太陽暦八月二六日)、旗艦《ソンジャタ=ケイサ》内で開かれた出陣壮行会で、酔っ払った一士官の放った銃弾の前に倒れ、その一週間後、ガニバサは息を引き取った。
戦争では無敵を誇った男のあっけない最後であった。
ガニバサを撃った士官は、その場で自殺し、事件の真相は今だ解明されていない。