かず「随分、雰囲気かわったなぁ?出世したんだって?」
たくみ「大した事してないよ!」
たくみとは同じ高校だった。5年振りに再開し、彼の行きつけの焼肉屋にいた。
かず「だってよ〜、焼き肉なんて豪華なもの中々来れないぜ〜」
たくみ「毎月何回かは来るよ。若い子もつれてさ。」
かず「す、すげ〜な。…ごちそうさまです!」
たくみ「割り勘だろ…?」
かず「そうだった?(笑)」
金曜の夜の忙しそうな店内で次第にお酒も入り2人は5年前の懐かしい話を続けていた。
たくみ「ここの焼肉屋さ、高校の同級の吉井。働いてたんだぜ。」
かず「へ〜、ん?吉井?」
たくみ「まぁかげの薄いヤツだったからな。女からも吉井じゃなくてウスイなんて呼ばれてな。…けど、この焼肉屋で頑張って働いてて大分イメージ変わったけどね、吉井。」
かず「あ〜ウスイね。思い出したよ。懐しい。今は働いてないのか?ウスイ。」
たくみ「…死んだんだよ。ここに来る途中に車にはねられて、もう3年前になるよ。」
かず「…マジかよ〜、なんかこの年齢になるとそんな話も出てくるんだなぁ」
たくみ「あぁ、俺も高校の時は一度も話した事もなかったけどな。
…なぁかず、奥のトイレの一番近くのテーブル席見えるか?」
かず「あの4人がけのテーブル席だよな。うん。」
たくみ「今何人座ってる?」
相変わらず混雑する店内で体をのけ反らしながら確認する。
かず「う〜ん、4人じゃないか?1人の姿が丁度便所の柱で隠れて見えないけど、みんな楽しそうに話してるよな?」
たくみ「そう。丁度死角になってて見えないんだ。1人。」
かずは目を凝らしてじっとテーブルを見つめる。
たくみ「あそこのテーブルはさ、どんなに店が混んでも3人しか通さないんだ。」
カタンカタン…
かずは箸を落とした。
楽しそうに見えた4人席には3人分の飲み物。そしてさっきからずっと動かない頭が少し見える。だが、こっちをじっとにらんでいるような気がする。
たくみ「いつも座ってるんだよ。あいつ。かずにも見えるって事は随分変わったんだなぁ。あいつ。」
かず「おい、あいつってまさか…」
たくみ「もうウスイじゃないだろ…?」