街を行く人々は楽しそうに笑顔を浮かべながら歩いている。
「ほら!待ちなさい!」
「アハハ!」
母親にクリスマスプレゼントに買ってもらったのか、まだ自分の体の半分程もあるサッカーボールを両手に抱えながら男の子が楽しそうに駈けている。
(ドンッ!)
その様子を少し離れて眺めていた男に男の子はぶつかり思わずボールを落としてしまう。ボールが男の足元にコロコロと転がった。
男はボールを拾い上げ男の子の頭を撫でながらボールを渡す。
「ごめんなさい、ありがとう」
男の子は嬉しさに頬を紅潮させながら笑顔で男に言った。
男は一言、「楽しそうだね」と男の子に微笑み返しながら言った。
だが男の瞳はそんな優しい言葉には似合わない、とても悲しそうな雰囲気を持っていた。
男の子はボールを受け取ると母親に手を引かれ、駅へと続く横断歩道へ向かった。
「ねぇ、ママ!ケーキ早く食べようね!」
クリスマスの夜ならどこにでも居るような幸せに満ち溢れた母子に見えた。
微笑みながら頷く母子を、ふと一筋の光が照らしだした。
ブレーキ音と同時にボールがポーンと道路を転がる中、辺りは一瞬の静寂に包まれた。
それもすぐにあちこちから上がる悲鳴に打ち消された。
クリスマスの夜が一瞬にして悲鳴と怒声で騒然とする街の中、先程の男だけが振り返る事無く歩き続けた。
男は煙草に火をつけ煙を吐きながらふと呟いた。
「謝なきゃならないのは俺のほうさ…」